Visual Simulation of Rain Cloud Formation Taking into account Cloud Microphysics

1. はじめに リアルな雲の動きの生成は,コンピュータグラフ ィックス (CG)分野で重要な研究テーマの一つであ る.しかし,従来研究では降雨を伴う雲 (雨雲 )の形 成は考慮されていない.雨雲は,積雲・積乱雲・乱 層雲などの総称であり,さまざまな気象要因により 生じる.熱帯では主に,強い上昇気流によって雨雲 が形成される.また,日本のような中緯度帯では, 前線などのように,温度分布に変化がある空間中を 大気が主に水平方向に通過することによって雲が形 成される.例えば,温暖前線では乱層雲などが雨を もたらし,降雨を経て軽くなった雲がさらに前線面 に沿って上昇することにより,高い高度に薄い雲が 生成される.これらの気象現象により,雲の密度分 布・大気中の水蒸気分布や雨滴の大きさの分布は変 化に富み,輪郭が明瞭なものから不明瞭なものまで, さまざまな雲が形成される.このように,降雨を伴 う雲形成では,しばしばダイナミックで印象的な雲 の動きが観測されるので,雨雲形成のビジュアルシ ミュレーションは CG 分野では重要であると考えら れる. 本研究では,気象学の分野で知られている雲微物 理 [1,2,3]を用いたモデルにより,降雨を伴う雲の形 成をシミュレーションする.雲粒や雨粒はともに水 滴であるが,雨粒は雲粒に比べて粒径が大きいため 落下速度が速く,大気の流れから逸脱して地上に到 達できる.このような水滴の大きさの違いは,雲微 物理を用いて,凝結・蒸発・衝突などの過程をシミ ュレーションすることで得られる.また,圧縮性の 大気モデルを用いることにより,大気の密度変化や 前線面での速度分布や温度分布などの急激な変化を 扱う.本稿では,写実的なレンダリング方法は今後 の課題とする.大気や雲をレンダリングする上で重 要なレイリー散乱やミー散乱では,大気や雲の粒子 の大きさや密度によって散乱係数や位相関数が異な る.そのため,シミュレーションにより得られた大 気や水滴などの空間的な分布は写実的なレンダリン グ結果を得る上で役に立つと考えられる.